導入事例

デンソー

「不調は誰にでもある」を職場の共通言語に。デンソーの会社・労組・健保がタッグを組んで実現した、女性の健康支援と働きやすい職場づくりへのアップデート

導入の目的

  • 女性自身の健康課題に関するヘルスリテラシーの向上と、女性の健康に関する男性の知識向上を図るとともに、個々の女性に応じた適切な支援を推進
  • 社内女性従業員向けのリテラシー調査結果より「働く女性の7割が健康課題で仕事に影響を受けている」「事技系職場に比べて女性特有の症状(生理痛など)による休みが取りづらい製造系職場」などの現状把握と課題の可視化

導入の効果

  • 婦人科の医療機関受診率が他健保と同水準まで向上し、女性従業員の約3割が自発的に女性向け健康支援サービスを利用するなどの行動変容につながった
  • 生理痛体験を通じた男性の意識変容により、朝礼での話題共有や「濃色の職服パンツ」の導入検討など、具体的な職場の改善活動につながった

世界最大級の自動車部品サプライヤーであるデンソーグループ(以下、デンソー)は、自動運転や電動化といったモビリティの未来を支えるシステムサプライヤーとして進化を続けています。そうした中、デンソーでは、女性特有の健康課題(生理、妊娠・出産、更年期など)に対し、女性向け健康支援サービスの導入、専門医によるセミナー、男性を含む管理職向け教育など、組織的な健康経営活動を推進してきました。

健康保険組合が持つデータ、労働組合が持つ現場との強い接点、そして会社の施策を掛け合わせることで、製造現場を含む全社的なリテラシー向上を図ってきました。その成果として、婦人科受診率の向上や、職場での対話の変化、さらに「濃色の職服パンツ」に関する議論の広がりなど、具体的な行動や環境改善として表れています。

今回は、三者共同で導入した女性向け健康支援サービス「FEMCLE(フェムクル)」と、ピリオノイドによる生理痛体験研修を通じて、デンソーグループ内でどのような変化が生まれ、どのように全社へ広がっていったのか、会社・労働組合・健康保険組合の皆さまにお話を伺いました。

【参加者】
株式会社デンソー 岡田光義様
株式会社デンソー 担当係長 工藤由佳理様
デンソー労働組合 執行委員 片山あかり様
デンソー労働組合 執行委員 糸魚川健一様
デンソー健康保険組合 榊原美穂様
※本記事は2026年4月時点の役職・情報に基づいています。

社内のリテラシー調査で、潜在的な「女性の健康課題」を可視化。FEMCLEの導入で医療機関受診率が向上

―まず、皆さまのご担当について簡単に教えてください。

岡田様(以下、岡田) 株式会社デンソー 健康推進部の岡田です。社内で健康経営を担当してきた中で進められていなかった女性向け健康施策の導入・検討を工藤と開始して現在に至っています。

工藤様(以下、工藤) 同じく健康推進部の工藤です。保健師で女性向け健康施策を担当しています。

片山様(以下、片山) デンソー労働組合の片山です。労働組合では、組合員に社会課題を分かりやすく伝え、行動のきっかけをつくるプロジェクト「カワレル Action College」を展開しています。その担当者として、デンソーでの生理痛体験には初回の2024年から関わっています。

糸魚川様(以下、糸魚川) デンソー労働組合の糸魚川です。労働組合では、大安製作所(三重県いなべ市)、大安地区を担当しています。

榊原様(以下、榊原) 私はデンソー健康保険組合に所属しており、会社とは異なるデータを活用できる立場として、皆さんと一緒に取り組んでいます。

―FEMCLEは、「無自覚層への気づき」や「労働損失の見える化」、より解像度の高い現状把握を目的に導入されたと伺っています。導入の経緯を教えてください。

工藤 デンソーでは2020年から、女性の健康課題をテーマにしたオンラインセミナーに取り組み、年に1〜2回のペースで継続的に実施してきました。社会全体で女性の健康課題に関する情報発信が増え始めた時期であり、デンソーでも重要なテーマの一つとして取り上げたことが活動の出発点でした。

その後、2018年3月に日本医療政策機構が発表した「働く女性の健康増進に関する調査結果」を参考にしながら、「デンソー独自の課題は何か」を把握するため、2022年に社内のリテラシー調査を実施しました。その結果、同調査と同様に、生理痛や月経過多、更年期といった女性の健康課題によって仕事に影響を受けている人が7割以上、さらに職場で困った経験がある人が5割以上いることが分かりました。男性比率の高い職場では、なかなか女性が声を上げにくい状況もある中で、デンソーにおいても女性の健康課題の影響を受けている従業員が多いことが明らかとなり、FEMCLEの導入に至りました。

それまでも、健康診断の問診を通じたセルフチェックなどには取り組んでいましたが、対象の広がりには限界がありました。そこで、全社的に展開し、より適切な支援ができる仕組みを検討しました。

岡田 実際に女性従業員がどのような困りごとを抱えているのか、私たちとしても十分に把握できていない部分がありました。FEMCLEを通じて、その実態をより具体的に知りたいと考えました。  

榊原 健康保険組合は日頃からコラボヘルスで会社と連携しており、会社と一体となって取り組むことで、デンソーグループ全体へも展開しやすく、そうした点は大きな強みであると感じています。

片山 生産現場やオフィスで働く女性が多くいる中で、女性の健康課題は組合員にとっても重要なテーマです。加えて、私たちが取り組む「カワレル」は、「環境」「経済」「生き方」を3本柱にしており、「会社だけでなく家庭や社会にも目を向けてほしい」というメッセージを発信しています。女性の健康課題を入り口に、自分自身や家族、周囲の人たちについて考えるきっかけになるのではないかと考えています。

―最初から三者共同で取り組んでいたのでしょうか。

工藤 最初は、会社(健康推進部)と健康保険組合で取り組みを開始しました。FEMCLEをより多くの方に利用していただきたいと考え、職場での説明会の開催やポスターの掲示、個人向けのメール配信などで周知を促しました。しかしながら、利用率においては特に製造系職場への認知・周知に課題がありました。そのため、現場へのアプローチが可能な労働組合に協力を依頼し、2024年から連携をスタートしました。

岡田 労働組合のLINEなどで情報を発信していただくことで、会社や健康保険組合だけでは行き届きにくい製造系職場への周知にもつながりました。

―男性比率の高い職場の中で、女性の健康課題への取り組みはどのように進められてきたのでしょうか。最初に旗振り役となったのはどの部門だったのでしょうか。

片山 最初に旗振り役を担ってくださったのは、会社の健康推進部の皆さんだったと思います。現在は、会社全体としても健康経営や全員活躍に光が当たり始めていると感じています。

例えば直近の事例では、職場や組合の活動の中で女性ワーキンググループが継続的に声を上げてきた「職服パンツに経血がついてしまう」という悩みがあります。2020年頃からずっと話題には上がっていましたが、当初は全体の課題として十分に扱われていませんでした。ところが今年に入り、職場安全などを議論する「全社安全衛生環境委員会」の場で、労働組合からもこうした声が上がっていることを共有できました。さらに、生理痛体験のアンケートでも同様の意見が寄せられていたことや、会社側でも健康経営をより積極的に進める機運が高まっていたことから、職服パンツの色の見直しの是非に向けた動きが一気に進みました。こうした対応のスピードに、組織としての変化を感じています。

―皆さまから見て、FEMCLEの導入効果はいかがでしたか。

榊原 最も大きな成果は、医療機関受診率の向上です。良い取り組みだと感じていても必須化は難しい中で、任意利用にもかかわらず、最終的に女性従業員の約3割が活用してくれたことは非常に大きな成果でした。上層部もその点を認識しています。私は健康保険組合に所属しているためレセプト情報を確認できるのですが、活動開始当初は婦人科の医療機関受診率がかなり低い状況でした。それが現在では、他の健康保険組合と同水準まで向上しています。

岡田 これまでは「受診まではしなくてもいいか」と考えていた方々に対して、受診を後押しする効果があったと感じています。

―労働組合から見た感想はいかがですか。

片山 私たちは日頃、社会課題に関する情報をLINEで配信しており、登録者は約1万8,000人います。その中でFEMCLEに関するPRや、「生理について学んでみませんか」といった学びの発信も行っていますが、開封率は非常に高く、6〜7割の方が内容までしっかり見てくださっています。その点からも、関心の高さを実感しています。

―デンソー全体の風土変化や、女性活躍を広げようとする動きも、医療機関受診率向上や意識変容の背景にあるのでしょうか。

片山 女性活躍という観点では、一般職にあたる職種の旧実務職の方と総合職の方を事技職へ統合した影響も大きかったと思います。一般職のままでは昇進・昇格に一定の制約がありましたが、それが外れたことで、活躍の幅が広がってきました。

榊原 男性の育休取得もかなり増えましたね。

糸魚川 ここ直近2年では、男性の育休取得率は80%とかなり高い水準です。お子さんが生まれた際に1か月取得する方もいれば、長い方では半年から1年ほど取得されることもあり、上司も自然に理解し、取得できる現場環境になってきていると感じます。

―そうした点からも、男女を問わず、働きやすく活躍できる環境づくりに取り組まれていることが伝わってきます。

片山 その通りだと思います。労使で健康経営への意識を共有しており、女性に限らず、すべての組合員が健康かつ健全に働ける職場づくりを進めていこうという考えは、組合としても強く持っています。

生理痛体験研修で「生理」を口にしづらい職場環境の改善。地道な課題共有が前向きな変化を生む

―FEMCLE導入後には、生理痛体験研修も導入されています。2024年に初回を実施し、その後3回にわたって開催されたと伺っています。デンソー労働組合の「カワレルAction College」の協賛のもと、健康推進部と健康保険組合が主催する形で開催されたとのことですが、その経緯を教えてください。

工藤 女性の健康課題に関する取り組みを始めた当初から、ワークショップのような体験型の場を設けたいという話はありました。ただ、その頃はまだ、対面で率直に語り合うような場を本当に実現できるのか、自分たち自身も半信半疑でした。そもそも「生理」という言葉自体が職場で口にしづらい雰囲気だったのです。そうした中で、セミナーや管理職向け研修を地道に続けていくうちに、「自分たちにも何かできるのではないか」という意識が少しずつ育ってきました。2024年から生理痛体験研修をスタートしてみると、場の雰囲気は非常によく、さまざまな話題が自然に共有されました。 生理や女性の健康について、立場に関わらずフラットに話せる機会は、私たちにとっても新たな気づきの多い経験となりました。

導入の背景には、FEMCLEによって個人へのアプローチはできるようになった一方で、製造系の社員への情報浸透にはなお課題があったことがあります。リテラシー調査では、製造系職場の方が、オフィス勤務の方よりも、自分の症状をチームや上司に伝えられず我慢している割合が高いことも分かりました。そうした実態を踏まえ、女性が置かれている状況を職場全体に知ってもらうことが、働きやすさの向上に直結すると考え、労働組合にも協力いただきながら導入を進めました。

―こうした取り組みが実現できるようになるまでに、社内の理解はどのように広がっていったのでしょうか。

工藤 健康推進部と健康保険組合として、年に1回または2回のペースでオンラインセミナーを継続してきたことは大きかったと思います。女性限定ではなく、社員であれば誰でも参加できる形にしたこともポイントでした。従業員比率の影響もあり、実際には男性の参加者の方が多い回もありました。セミナーを継続していく中で、掲示や周知によって目に触れる機会が増え、「こうした課題が存在する」ということ自体を、多くの社員に知ってもらえるようになったと感じています。

岡田 管理職やマネジメント層を対象としたセミナーも実施しました。受講後の反応は他の従業員と大きくは変わりませんでしたが、「知ることができてよかった」という声を多くいただきました。セミナー実施そのものに対する前向きな受け止め方も増えており、その点でも変化を感じています。

榊原 男性側も、実は対応の難しさを感じていた面があったのではないかと思います。女性がつらそうにしていても、どう声をかければよいのか分からない。そうした戸惑いと、女性側の言いづらさの両方があった中で、学ぶ機会ができたことで扉が開いたのかもしれません。

―生理痛体験の実施時には、どのような反響がありましたか。

糸魚川 大安製作所で実施した際には、さまざまな職位の方に幅広く参加いただきました。男性社員からは、「想像していたより痛い」「こんな痛みの中で業務をしているなんて信じられない」といった驚きの声が多く上がりました。また、女性への接し方についても気づきがありました。つい「大丈夫?」と声をかけがちですが、そう聞かれると、女性側は「大丈夫です」と答えてしまいがちです。相手に気を使わせず、無理をさせない関わり方を考える必要がある、という学びにつながりました。

女性社員からは、「男性の班長が生理痛体験に参加したあと、その内容を朝礼で共有してくれた。みんなが真剣に聞いてくれたことで、自分も勇気を出して生理について申告したいと思えた」といった声もありました。

―そうした変化が受け入れられる土壌が、もともとあったこともうかがえますね。

「女性用」ではなく「全社員用」へ。生理痛体験から生まれた濃色の職服パンツという発想

―生理痛体験研修の効果としての取り組みや参加者の声があれば教えてください。やはり大きかったのは「服の色の変更」のお話でしょうか。

片山 もともと、女性ワーキンググループの中では、職服パンツの色や生理に関する悩みが以前から共有されていました。ただ、それが全社的な議論の場にまで上がることは多くありませんでした。

今年、阿久比製作所で生理痛体験を実施した際、製作所内の部長のひとりにも参加いただきました。感想共有の場で部長が「阿久比製作所オリジナルで濃色の職服パンツをつくるか」と発言されたのです。会社側がそうした前向きな姿勢を示してくれたことは、大きな転機になりました。

その後、全社安全衛生環境委員会の場で、生理痛体験の中で出た声を共有することができました。その結果、製作所ごとに個別で取り組むよりも、全社的な視点で検討した方がよいのではないか、という議論につながっていきました。ちょうど労使協議会でも健康経営が大きなテーマとなっていた時期であり、職服パンツの見直しに関する議論も具体的に進み始めています。

当初は「女性用の職服パンツ」という言い方をしていたのですが、次第に「濃色のパンツが必要な人は、男性にもいるのではないか」という話になりました。そうした議論を経て、社内では「女性向け」ではなく、より広く捉えた「濃色の職服パンツ」という表現に変わってきています。

デンソーが目指す「個に寄り添う」健康経営の最前線

―最後に、デンソー様、健保様、労組様それぞれの今後の展望や取り組みの方向性をお聞かせください。

片山 今後は、全製作所で生理痛体験を実施していきたいと考えています。各製作所の地区長にもその価値を伝えながら、少しずつ広げていきたいですね。また、現場からは「班長研修やマネジメント研修の中で必須化できないか」といった声も出ています。労働組合として研修制度そのものに踏み込むのは簡単ではありませんが、何らかの形で後押しできるアクションを考えていきたいと思っています。

岡田 例えば生理用品の販売についても、社内の売店ではまだ取り扱いがない拠点があり、全社的な展開には至っていません。そうした点も含めて、今後も継続的に働きかけていく必要があると考えています。また、法対応として健康診断に女性向けの問診を導入した場合の運用についてもまだ整理しきれていない部分があります。こうした制度面・環境面の整備を進めていきたいと思っています。

工藤 健康推進部としては、個人の健康と職場の健康の両方に重点を置いています。2026年度は、より「個にフィットした健康支援」に集中的に取り組んでいく方針です。女性自身が抱える課題について、健康診断の問診やリテラシー調査などを通じて丁寧に把握し、全体の課題感がどのように変化しているかを見ながら、今後の施策につなげていきたいと考えています。

榊原 デンソーでは、女性は全体の17%程度で、大きめのマイノリティにあたります。ただ、今回の取り組みを通じて、「不調は誰にでもある」ということが改めて見えてきたと感じています。女性の健康課題をきっかけに、「病気を抱えながら働く」「年齢を重ねる中でさまざまな健康課題が生じる」といった、より幅広いテーマへ議論を広げていくことが最終的な目標です。医療費にも関わる話ですし、従業員本人だけでなく家族の健康にもつながります。女性の健康課題を起点に、支援の輪がさらに広がっていくことを期待しています。

デンソー様、デンソー労働組合様、デンソー健康保険組合様、このたびは貴重なお話をありがとうございました。

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