日本たばこ産業株式会社(JT)

JTが挑む、性差に基づく健康課題への両立支援制度「Wellness Advance」の最前線

導入の目的

  • 性差に基づく健康課題について、まずは従業員一人ひとりが正しく理解し、身近に感じてもらう
  • 制度の導入にとどまらず、他者の「見えづらい痛みやつらさ」について体験を通じて自分事として理解し、互いを思いやる気持ちを育むことで、より良い職場風土の醸成につなげる

導入の効果

  • 男女間や男性同士で生理について会話する場面が見られるようになるなど、これまで話しづらかったテーマについてオープンに話せる雰囲気が、育まれるきっかけとなった
  • 生理への理解が進んだことで、「これまで会社で触れることはタブーだと思っていた」という意識が変化し、当事者以外の社員からも周囲への配慮をより深めたいという声が上がるなど、前向きな行動変容につながった

日本たばこ産業株式会社(以下、JT)は、世界130以上の国と地域で事業を展開し、連結従業員数約5万3,000名のうち約7割を海外の従業員が占めるグローバル企業です。2025年10月、性差に基づく健康課題(月経随伴症状、更年期障害、妊孕性の低下、性別特有のがんなど)を支援する制度「Wellness Advance(ウェルネス アドバンス)」を導入しました。

制度の拡充にとどまらず、生理痛体験会を導入いただくほか、オリジナルのコンセプト動画の制作など徹底した「風土醸成」に取り組む背景にはどのような思いがあったのか、人事部で両立支援や福利厚生を担当する山崎様に伺いました。「弱みを表に出すことへの男性の心理的ハードル」や「部下への対応に戸惑いを感じる上司の不安への配慮」といったエピソードは、単なる制度導入を超えた、深い人間理解に基づく細やかなものでした。

【参加者】
日本たばこ産業株式会社 人事部 山崎志おり様
※本記事は2026年1月時点の役職・情報に基づいています

JTが「性差に基づく健康課題」に向き合う理由とは

──会社全体の事業内容について教えていただけますか?

山崎様(以下、山崎) 弊社は世界130以上の国と地域で事業を展開しており、社員約5万3,000人のうち約7割が海外で働くグローバル企業です。中核であるたばこ事業では、従来の紙巻たばこだけでなく、近年は「Ploom」に代表される加熱式たばこも取り扱っています。また、テーブルマークや富士食品工業などを通じた加工食品事業も展開し、皆さまに寄り添う製品をお届けしています。

──山崎様が所属されている人事部の役割について教えてください。

山崎 私たちは人事領域のプロフェッショナルとして、社会情勢や将来の変化予測に基づき、人事制度の企画設計を行う役割を担っています。具体的には、報酬体系の企画設計や点検、従業員の多様な価値観やワークスタイルに応える勤務条件や両立支援制度の企画、そして働きがいを高める福利厚生施策の企画運営という3つの領域に分かれています。私はその中で、主に両立支援と福利厚生を担当しています。

──現場の運用というよりは、制度そのものを作るチームということですね。

山崎 そうですね。ミッションは全社や各事業部の戦略的目標に合わせ、効果的な人事制度を企画し、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できるような制度を構築することです。

──2025年10月に導入した、性差に基づく健康課題を支援する制度「Wellness Advance」について、発足の経緯を教えてください。

山崎 このプロジェクトが動き出したのは、2年ほど前に、「会社の未来のために自分たちは何をしたいか」という議論があったことがきっかけでした。以前から生理休暇はありましたが、当時は制度を使いづらい風土があることが課題でした。また、不妊に悩む方が増えているという社会情勢があり、実際に社内からも不妊治療への支援を求める声が上がっていました。経済産業省からも女性特有の健康課題が大きな経済損失につながるというデータが示されており、我々にとっても例外ではないと考えたのです。

──JT様の従業員の男女比を教えていただけますか?

山崎 7割が男性です。弊社は男性が多い職場であることからこれまで女性特有のセンシティブな健康課題は表面化しづらく、課題として可視化されてこなかったという状況がありました。しかし、将来的に女性社員が増え、晩婚化や不妊治療をする夫婦が増加していくことを考えたとき、「今このタイミングでアクションを起こさなければダメだ」という強い危機感がありました。

「女性のためだけ」ではない。性別を問わず誰もが使える制度設計と工夫

──「Wellness Advance」はどのような制度ですか?

山崎 「働き方に関する制度の新設・拡充」「経済的支援策の新設・拡充」「風土醸成を通じた理解促進」の3点セットで構成しています。

私たちがかなり意識したのは、「女性のためだけの制度」ではなく、性別や年代に関わらず誰もが使える制度にするということです。従来の生理休暇を「Wellness休暇」に改称し、月経随伴症状に加えて不妊治療や更年期の通院も対象としました。あわせて、不妊治療に専念したい方を対象に短時間勤務制度、休職制度を導入しました。そのどれもが、性別にかかわらず取得できるように設計しました。また、経済的支援の面でも、もともとあった「健康支援費用補助」の使用用途を拡充し、性別問わず更年期や不妊治療の通院にかかった薬の費用補助にも使えるようにしています。

──性別を問わない支援が充実しているのですね。

山崎 バランスを取るためのコミュニケーション施策には非常に気を配りました。女性のためだけの制度だと思われることのないよう、生理痛体験会だけでなく、著名人をお招きした男性更年期に関する講演会をセットで開催しました。

また、「Wellness Advance」の導入に合わせてコンセプト動画を制作しました。女性だけではなく、男性も不妊治療や更年期で悩む姿を盛り込み、健康課題が「誰にでも起こる自分ごとなんだ」というメッセージを強調しました。社員一人ひとりが健やかに輝き続けられる職場環境を目指すという願いを込め、様々な方向から社員へのコミュニケーションを取っていけたと思っています。

「Wellness Advance」コンセプト動画の一部

制度を活かすための生理痛体験会と、上司を不安にさせないサポート体制

──生理痛体験について、「体験会」として計4回導入いただきました。導入の背景や目的について教えていただけますか。

山崎 制度を知ってもらうきっかけとして、まずは率先して人事部で、次に本社へと広げ、合わせて4回実施しました。最大の目的は、「Wellness Advance」を利用しやすい風土の醸成です。制度が存在するだけの状態を避けるために、まずは制度と健康課題について「知ってもらうこと」が重要だと考えました。

生理痛体験の導入については、当時、お笑い芸人の千原ジュニアさんが体験したYouTubeなどで世間の認知度が上がっていたこともあり、知ってもらうきっかけとして良いと思いました。他者の「見えづらい痛みやつらさ」について体験を通じて自分事として理解し、思いやる気持ちを育めるような風土を作りたいと考えました。

──反響はいかがでしたか?

山崎 男性からは「これまで話しづらいタブーなところがあると思っていたが、体験して理解が進んだ」「家族や周囲の人たちへの配慮を深めたい」というご意見をいただきました。女性からも「自分が普通だと思っていたけれど、同性であっても痛みや感じ方は違うことを再確認した」といった声があり、この「個人の違いを理解する」プロセスこそが、思いやりのある風土につながると実感しています。

生理痛体験会で使用されたボード

──職場全体の雰囲気に変化はありましたか?

山崎: 非常に大きな一歩だと感じたのは、男女間や男性同士で生理について普通に会話する場面が見られるようになったことです。これまで話すことが難しかったテーマについてオープンに話せるようになったことは、「Wellness Advance」を推進する上で非常に大きな効果があったと感じています。

──管理職の皆さまに対するサポートはどのように行っていますか?

山崎 各種制度の申請先は基本的に上司です。上司が部下から生理や不妊治療の相談を受けた際に、知識不足が理由で「セクハラになるかもしれない」という不安を抱える、あるいは萎縮してしまう状態でコミュニケーションを取ってほしくありませんでした。

そこで、生理中や更年期の際に職場で気になることや具体的な声かけのコミュニケーション例を記載したガイドブックを作成しました。さらに、詳しいケーススタディを入れたeラーニングも作成し、お互いが気持ちよく制度を使えるためのサポートを徹底しました。その結果、上司側からも「コミュニケーションが取りやすくなった」という反応をもらえました。

ガイドブックの一部

導入後の手応えと、全国47都道府県に拠点を持つ企業ならではの課題

──「Wellness Advance」導入の後の手応えはいかがですか?

山崎様 男性が更年期の通院で休暇制度を利用したり、費用補助を申請したりするケースが出てきており、必要とする層に着実に届き始めていると実感しています。また、上司向けのeラーニングの効果で「部下とコミュニケーションが取りやすくなった」という声も寄せられています。

──今後の課題はどのようなところにありますか?

山崎 弊社は47都道府県に拠点があります。そのため、制度や風土を全国の拠点に浸透させていくことが継続的な課題となっています。各拠点の産業医や保健師といった医療スタッフと連携を図り、保健師との面談のタイミングで制度の周知をしてもらうなど、地道な落とし込みを継続しています。

JTのパーパス「心の豊かさを、もっと。」の実現に向けて

──今後の展望についてお聞かせください。

山崎 JTのパーパスは「心の豊かさを、もっと。」です。その前提には、従業員一人ひとりが自分らしく生きていくことがあると考えています。更年期障害や月経随伴症状といった性差に基づく健康課題が、「自分らしくいたい」という思いを妨げる壁になっているのであれば、それを取り払うのが私たちの仕事です。

「Wellness Advance」では、風土の醸成が今後も課題となってくると思っています。制度を展開してみて痛感したのが、思っている以上に「男性は自分の体のことについて話したり、弱みを表に出すことに抵抗がある人が多い」ということです。そういった方々にもこの制度が届き、きちんと制度を活用できるように、取り組んでいきたいと考えています。

これからも人事部として、制度を使える風土を全国の隅々にまで根付かせ、従業員が自分らしく、心の豊かさを感じられるような土台作りを頑張っていきたいと思っています。

JTの山崎様、お忙しい中お話をいただきありがとうございました。

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