LINEヤフー株式会社

生理痛疑似体験を従業員の対話のトリガーに。LINEヤフーが実践する、1万人超の健康を支える「仕掛け」のつくり方

導入の目的

  • セミナー等の情報発信では届かなかった層に対し、体験という新しい切り口で関心を持ってもらう
  • 「他者の痛み」をリアルに知ることで想像力を巡らせ、お互いを理解し合える対話の契機を作る

導入の効果

  • 男性社員が痛みを疑似体験したことで、休暇制度の重要性について深い納得・浸透が得られた
  • 普段は話しづらい体調について対話するきっかけが生まれ、有志による関連プロジェクトも実現した

近年、持続可能な企業成長や人的資本経営の観点から、従業員の健康増進やウェルビーイングの向上は重要な経営課題となっています。しかし、多様なライフステージや価値観を持つ従業員が在籍する組織において、全社的な関心を高め、実効性のある健康施策を展開・浸透させることに課題を抱える企業は少なくありません。

1万人を超える規模の従業員が所属するLINEヤフー株式会社(以下、LINEヤフー)は、DE&Iについて改めて考える機会を提供する全社イベント「DE&I Week」の年次開催や、健康への気づきを得る「グッドコンディション月間」を毎年10月に実施するなど、様々な施策に取り組んでいます。

LINEヤフーの全社的な健康サポートを担う専門部署「グッドコンディションサポートディビジョン」の具体的な取り組みについて、東京と八戸のオフィスで実施された生理痛疑似体験を軸に紹介します。同部署では、医療職と企画職が連携し、食や運動、女性の健康、睡眠といった多角的なアプローチを展開しています。福利厚生の枠を超え、組織の活性化やDE&Iの推進へとつなげる健康経営の実践例として、ぜひご一読ください。

【参加者】
LINEヤフー株式会社 経営戦略ドメイン 人事総務CBU グッドコンディションサポートディビジョン 鈴木麻未様
LINEヤフー株式会社 経営戦略ドメイン 人事総務CBU グッドコンディションサポートディビジョン 川村由起子様
LINEヤフー株式会社 経営戦略ドメイン 人事総務CBU グッドコンディションサポートディビジョン 長谷川由紀様
※本記事は2026年1月時点の情報に基づいています

従業員の「グッドコンディション」を設計する専門組織が多角的に健康をサポート

―まずは、皆さまが所属されている「グッドコンディションサポートディビジョン」の役割や業務内容について教えてください。

鈴木さま(以下、鈴木) 私たちの部署は、一言で言えば「従業員の健康支援」を担う専門組織です。産業医や保健師といった医療職と、私たちのような企画職で構成されています。私は、女性の健康やストレスチェック、健康診断における二次検査の費用補助、インフルエンザ予防接種の運営などを行っています。

川村さま(以下、川村) 私は運動施策の設計から実施までを担当しています。健康運動指導士の資格を保持していて、社内での体力測定会の実施など、フィジカル面からのアプローチを企画しています。

長谷川さま(以下、長谷川) 私は「食の健康施策」の担当として、社内カフェテリア(ダイニング・レストラン・カフェ)の運営を通じたサポートをしています。単に栄養面で支えるだけでなく、レストランをコミュニケーションの場として活用し、組織の活性化を図ることもミッションの一つです。

―かなり多方面から従業員の健康をサポートされていますね。何名ほどいらっしゃるのでしょうか。

鈴木 企画職のメンバーが10人ほどおり、医療職を含めると20人超の規模の組織です。2023年の会社合併を経て、旧LINEと旧ヤフーそれぞれの良い施策を統合し、ニーズを見据えながら、1万人を超える全従業員がベストな状態で働けるよう、健康診断やストレスチェック、食、運動、そして女性の健康支援など、メンバーが職域を超えて多角的なアプローチを行っています。

―部署として、従業員に対してライフスタイルを支える活動をしているのですね。川村 LINEヤフーグループには、グループ全体の行動規範があります。その中に健康に関しても盛り込まれていて、従業員が行動規範をきちんと認知しているかなどについて会社側の方でも把握しています。そういった姿勢が全従業員に浸透している形となっています。

「情報発信の課題」を体験型の施策で突破。共感の輪は八戸へ

―健康施策の一環として、生理痛疑似体験研修を導入した背景について教えてください。

鈴木 女性の健康支援に長年取り組んでおり、女性自身のリテラシーと周りの理解の双方が必要なことがわかっています。リテラシーの向上には終わりがありませんから、各種セミナーの実施や記事の発信、eラーニングでの啓発、婦人科検診の充実など、様々な施策を行っています。

ただ、情報発信に対して反応してくれる方は既に「関心を持ってくれている層」で、それ以外の方々にはなかなか届かないという課題がありました。そこで、「実際に何かを体験する」形の施策であれば、別の視点として興味を持ってもらえるのではないかと考えました。 これまでに女性の希望者を対象として「エクオール検査」(大豆を食べた際に、女性ホルモンに似た成分「エクオール」が体内で作られるかどうかを調べる検査)を行ったのですが、自分の体で体験するという形式で非常に人気がありました。自分の体で体験したことは、誰かにも言いたくなるんですよね。

鈴木 そんな時、私自身が外部のイベントで生理痛疑似体験を経験し、痛みがかなりリアルだと感じたこと、自分自身の痛みと比べられるという点から、関心を持ってもらえるのではないかと考えました。

そこで東京オフィスで全従業員を対象として、希望を募って体験会を実施したところ、かなり反響があり、珍しいイベントということで興味を持ってもらえました。体験型のイベントでは数十人が限度となってしまうのがもったいないと考えたため、より多くの社員に届けるために「イベントレポート」を作成して公開しました。レポートが出てすぐに、青森の八戸センターから「ぜひ八戸でも実施してほしい」とリクエストがあったんです。

長谷川 八戸センターにはカスタマーサポート部門があり、女性比率が高いのですが、以前から「男性の上司にも生理痛のつらさを知ってほしい」という声が上がっていたようです。

―当日の様子や、参加された方々の反応はいかがでしたか?

鈴木 東京のオフィスでは、多くの男性社員が参加してくれました。「パートナーの生理が重いので、少しでも痛みを理解して寄り添いたい」という方が何人も来てくれました。若い社員が「すごく痛かった」「この痛みに耐えて働いているなんて尊敬する」など、社内のチャットなどで発信しているのが見えて、それくらい人に言いたくなる体験だったんだなと印象深かったですね。

女性の場合は、生理痛よりもPMSや頭痛などの随伴症状の方がつらいケースもあるなど、別のことを表現するきっかけにもなると考えていました。自分の生理痛の軽重について普段発言する機会はあまりありませんが、生理痛体験という共通の経験があると、ついでに言えるというのがとても良いきっかけになったと思っています。男女ともバランスよく参加してもらえてよかったです。

長谷川 八戸センターでは、パートナーの痛みを知るために来た方の他にも、ずっと意見交換を活発にしている方がいるなど、他者をよりよく理解しようとしてくれているのがとても印象的でした。また、ある女性参加者からは「私の普段の痛みはもっとずっと強い」という声があり、その状況下で仕事のパフォーマンスを発揮していることに周囲が驚いた場面もありました。普段一緒に働いている人とそういう会話をする機会はなかったので、相手のことを理解するための良いイベントだったと思っています。

川村 私は八戸で、男性の方が生理痛の疑似体験を通して「これは休まなきゃね」と理解してくれたことに驚きました。F休暇(LINEヤフーにおける、生理や体調不良、不妊治療などのための特別休暇制度) の存在は、男性から見たら素朴に「なぜ女性だけ?」と感じると思うんです。でも生理痛が大変だという理解が得られたのを見て、本当に実施してよかったと思いました。

痛みの強制はしない。体験とレポートで「お互いの想像力」に変換

―八戸のオフィスと連携されたというお話がありましたが、コミュニケーションをどう取られたのでしょうか。

鈴木 グッドコンディションサポートディビジョンのメンバーは東京にいますが、各拠点には取りまとめ役がいて、衛生管理者の資格を保持し、健康の保持・増進についても推進してくれています。その人と連携している形ですね。

長谷川 地方拠点とのコミュニケーション施策として、 社員同士の交流を目的とした食にまつわるイベント「ともパ」「ともヌン」を定期的に開催しています(参考:LINEヤフー、社員の孤立防ぐ「ともカフェ」「ともパ」 :日経ビジネス電子版 )。川村が各拠点で開催している「体力測定会」を、八戸で「ともヌン」を実施する際に一緒にやろうという話になりました。そこで八戸の取りまとめ役が東京の生理痛疑似体験のイベントレポートを読み、その機会に生理痛疑似体験も同時に実現させたという流れです。

鈴木 「生理痛を疑似体験して終わり」ではなく、レポートを通じて「全社的な対話のきっかけ」にすることに意味があります。実際に、この取り組みをきっかけに、営業部門の有志が生理用品に関連するイベントを実施するプロジェクトに取り組むといった動きも生まれました。

生理痛疑似体験は主に女性の健康がテーマとなりますが、「他者の痛みを知る」という多様性に関するメッセージングも実施しています。男性向けの施策、さらにパートナーの方が使える制度の設計も行っています。

―例えばパートナーの方が使える制度にはどのようなものがあるのでしょうか?

鈴木 卵巣内に残っている卵子の数の目安(卵巣予備能)について検査する「AMH検査」を、提携クリニックにおいて無料で受けられるのですが、女性従業員だけではなく、男性従業員のパートナーの方も使えます。また、不妊治療の休職制度も男女とも使えますし、不妊治療の治療費の補助は、パートナーの方にも使っていただけます。

―多様な施策を実施する中で、生理痛疑似体験導入の際に留意された点について教えてください。

鈴木 女性の痛みやつらさばかり主張するように見える点については、配慮を重ねました。幸い、良い方向に受け止めてくれた従業員が多かったのですが、ピリオノイドの「強」の痛みに絶対耐えてくれ、ということを強いるつもりは全然ありません。「つらさをアピールしている」と誤解されるのを避けるため、「多くの人が働く中で互いに理解する」というメッセージを伝えながら実施することを大切にしました。

痛い思いを誰かにさせたい人がいるわけではなく、想像力を巡らせるきっかけになるというところに価値があると考えます。対話のきっかけを作るという点が大事だと思っています。 イベントレポートは従業員全員に目を通してほしいと思いながら書いていますが、生理痛疑似体験については、経験してみたいと思う方が経験して、それを他の人に向けて発信してもらうことで参考になるといいな……というくらいが、一番いい温度感じゃないかと感じています。

「小さなトライ」と「スピード感」で、従業員の成長に寄り添う

―今後、グッドコンディションサポートディビジョンではどのような健康支援を考えていらっしゃいますか。

鈴木 直近では、睡眠の啓発に力を入れています。個人差が大きく、メンタルヘルスとも密接に関わる部分なので、2年前から他の施策と同様に従業員へのヒアリングをしたり、デバイスを使った測定のトライアルを行ったりと、スモールステップで始めています。

―意思決定の素早さを感じるエピソードですね。LINEヤフーならではの文化があるのでしょうか。

鈴木 小規模なトライを繰り返すという考え方はあると思います。

長谷川 企画職のメンバーはみんな、もともとインターネットのサービス企画を担当していたことがあって、 目的と費用と達成したいゴールについて考える「ものづくり」のフレームやサイクルにはなじみがあります。そのため、小さなトライアルに対するスピード感があるかもしれません。

川村 大規模にお金をかける施策に対してはもちろん手続きを踏みますが、長谷川が言ったように、ネットサービスの開発と同様、ユーザー調査やテスト実施を経て、うまくいった根拠を積み重ねるなどは共通していると思います。

鈴木 従業員の規模が大きくなると、ライフステージがどんどん変化し続けていきます。健康課題も増えていきます。従業員の成長に合わせて健康施策も充実させていく必要があると感じています。

―今春には、新しい事業拠点も増えますね。

鈴木 2026年4月に、東京に新しく赤坂オフィスがオープンします。そこで働く従業員一人ひとりが、健康で楽しく働ける環境を整えていけたらと考えています。

LINEヤフーの鈴木様、川村様、長谷川様、このたびは貴重なお話をありがとうございました。

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