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2021.5.27

注目される「フェムテック」市場。秘めた可能性と求められるリテラシーとは

近年、これまで見過ごされやすかった女性(Female)の体の悩みを技術(Technology)で改善する「フェムテック(Femtech)」が注目されています。日本でもサービスや製品開発のほか、女性特有の健康課題にアプローチする取り組みも増加しました。

反面、「フェムテック」というキーワードの認知のみが先行してしまい、メディカルチェックの観点で危ういものも少なからず登場しています。

そこで、今回はリンケージでCMO(Chief Medical Officer)を務める石澤先生と、産婦人科医の稲葉先生にフェムテックとはなにか、また、その領域が秘める可能性などについてお話を伺いました。

── 本日はよろしくお願いいたします。まずはじめに、医療資格をお持ちのお二人に、フェムテックとはどのようなものだとお考えかを伺いたいです。

石澤先生:
一言で説明するのは難しいですが、「女性の健康課題をテクノロジーの活用により解決していくこと」という定義が一般的かと思います。

私は産業医であり、従業員の健康増進を専門分野としていますが、昨今、特に健康経営を推進する企業では、女性特有の健康課題に対してアプローチする動きが加速しています。これは、従業員全員が性差を問わず、最大限の力を発揮できる環境を実現する必要性が高まっているからです。

これからの産業保健活動は、安全配慮義務の観点から従業員の健康を守るだけでは不十分です。働きやすい就労環境を作って従業員の健康や幸せを保障するとともに、持続可能な組織体制や生産性向上などを達成し、両者にハッピーな状況を生み出すことが大切です。こういった健康経営の一つの取組みとして、フェムテックはいま注目されている領域ですね。

稲葉先生:
私も、定義としては石澤先生のご説明の通り、「女性が抱える健康問題をテクノロジーで解決する」ことだと考えています。

近年、フェムテック領域では、まさに女性の健康問題を解決するサービスや商品が多数登場しています。それらがテクノロジーを活用したもので女性にとってよいものであれば、また女性の健康問題を解決することでイキイキと活躍できる環境が実現できるのであれば、マクロで見たときにフェムテックに該当するという考え方です。

── 確かに、ポテンシャルのある領域ですね。海外と比べるといかがでしょうか。

石澤先生:
日本は世界に比べて遅れている状況です。実際、先日発表されたジェンダーギャップ指数では日本が120位、先進諸国の中では最下位との結果が出ています。

性差に関わらず、仕事でもプライベートでも持てる能力を十二分に発揮できるようにすることは、本人だけではなく社会全体の幸福度を向上させるためにも重要です。心身の健康は能力発揮のための必要条件ですので、一人一人が自身の健康課題に向き合いながら健康を維持増進することができる仕組みづくりが大切です。

そして、今の日本社会で不足している取り組みの一つが、女性特有の健康課題について理解を深めることです。女性の健康問題は、男性にとっては認識するのが難しい一方、女性にとっては声を上げづらい分野であり、これまで十分な議論が進んできませんでした。日本では特に改善すべき点が多くある領域だと言えるでしょう。

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稲葉先生:
世界との違いという意味では、日本はまだフィールドに足を踏み入れた程度で、これからさらなる拡大が期待される領域です。

他国に遅れている要因は、文化の違いも影響しています。というのも、欧米では初潮がくる10代で産婦人科のかかりつけ医を持つことが当たり前の文化があるのです。このようにそもそも女性特有の悩みに関して医療にアクセスしやすい環境が背景にあるうえに、女性が快適に過ごせるようにと、テクノロジーを活用した「フェムテック」が拡大しはじめた、といった流れがあります。子供の頃から女性特有の健康課題に対して当事者意識を持って関わる文化的な背景が、日本との差を生み出しているとも考えられるでしょう。

日本では、そもそも女性が産婦人科にかかること自体、異常にハードルが高い状況があります。そのため、実は本来 産婦人科に相談しにきてくれればすぐ解決できることに悩んでいる女性はまだまだたくさんいます。

このように、まだ日本では女性自身ですら自分の身体に向き合えていない状況があるにもかかわらず、フェムテックが注目を集めるようになりました。欧米とは順番が逆といいますか、女性特有の健康課題への意識改革と同時に拡大しつつある状況です。

これらを踏まえると、産婦人科医としては、耳障りが良くて一人歩きしやすい「フェムテック」が本来の目的と違う形で扱われないことを期待しています。女性にとっていいものが広まって欲しいですね。

── 一方で、フェムテック領域に限らず、テクノロジーを悪用したり、故意でなくとも法律に反したりするサービスも増えている印象です。

石澤先生:
テクノロジーを使って健康問題を解決するための手法は数多くあります。例えば、薬を薬局に通わなくてもECショップで購入できるようにしたり、認知行動療法アプリを用いてメンタルクリニックに通院しなくても患者さん自身が健康課題を解決しやすくするなど、様々なバリエーションがありますよね。

一方で、なぜ医療分野に多くの規制があるかというと、医療技術は危険性を内包しており、おかしな使い方をすると健康を害する可能性があるからです。あくまで医療は健康になってもらうための手段であり、心身を傷つける可能性はできるだけ排除する必要があります。特に薬の処方などの医療行為は、正しい知識を持った医療者が正しく関わることで、はじめて安全性が担保された社会的に許容されるサービスになります。

しかし現状では、こういった医療のリスクを無視したサービスや、法規制に抵触したサービスを展開するサービサーが乱立しています。これはフェムテックに限らずヘルステック全般に言えることですが、こうした不適切な活動によって業界全体の信頼が落ちてしまうことは避けなければなりません。

そのため、医療サービスを行う上でのリスクや法規制を十分に理解したうえで、その範囲内で患者さんや社会全体の健康改善のためにどんなサービスが提供できるのかを考えられるよう、業界全体での啓発活動などの取り組みが必要だと考えています。

稲葉先生:
当たり前ですが、医師が監修していれば全ての商品やサービスがOKであるはずはありません。法律での規制などもあり、医者が言ってることが100%正しいわけではないからです。

もし利用する前にリスクのないものであるか見極める自信がなかったら、近くのかかりつけの先生に聞いてみるなど、一人一人が正しい情報を得るリテラシーも求められるでしょう。

また、薬機法などの法律に違反しているかどうかというポイントとは別に、果たしてその※商品やサービスが謳っているほどの効果があるのかを正しく理解することも大事です。

※ 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

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── サービスや商品を提供する企業が理解している「つもり」になっている可能性もあるんですね。個人がヘルスリテラシーを高めるにはどのようなことが必要でしょうか。

石澤先生:
インターネットにはいまや多くの情報が溢れています。便利な反面、医学的に不正確な情報ほどキャッチーで魅力的なタイトルをつけ、人を惹きつけてしまうケースが多いことを懸念しています。「〇〇が絶対に治ります」「病院にかからなくても大丈夫」といった内容が典型的ですね。しかし医療分野に関わらず、100%うまくいったり、なんのリスクもなかったりするなどの美味しい話は疑ってかかるべきです。

自分で情報を調べるなら、1つの情報だけを鵜呑みにせず、批判的に見たうえで他の情報ソースにも当たることが大事だと思います。その際には大学病院や公的機関の出している情報は比較的信頼性が高いと考えてください。その上で信頼できるかかりつけ医に相談しながら、ヘルスリテラシーを高めていくとよいのではないでしょうか。

稲葉先生:
一般の方が自分でしっかり判断できるようになるのはなかなか難しいことだと思います。ただ、明らかに怪しいものを察知するリテラシーを身につけ、生活していただけたら嬉しいです。

加えて医師としては、発信する側、例えば医療関係者や国、公的機関、学会やマスコミなどの発信が、もっと一般の方に届きやすいように工夫するべきだと思います。発信するだけでは意味がないので、心に届くような言葉や伝え方で、一般の方のヘルスリテラシーが向上できるようにすべきだと考えています。

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── 医師にかかるべきタイミングや注意点などはあるのでしょうか。

稲葉先生:
健康上で困っていることがあれば、正しいのかどうかわからない情報に頼ったりサプリなどに頼ったりするよりもまず、医師に相談していただけたら嬉しいです。もし症状があってどの診療科にかかるべきか判断しにくいときは、まずいったん一番かかりやすいところを受診してください。もしその科の疾患でなければ、しかるべき科へ紹介してもらえるので安心してください。

ただし、どんな医師も一問一答ですぐに100%答えを導けるわけではないことは頭に入れておいていただけたらいいかなと思います。

石澤先生:
ほとんどの医師はどの分野に対しても最低限の医学的知識があるので、信頼できる医師がいるなら、専門外であっても一度相談してみるとよいでしょう。おすすめの専門医を紹介してくれるかもしれません。

一方で、医師とはいえ自分の専門分野以外については高い技術を持っているわけではありません。メディアでは様々なテーマに対してコメンテーターとして活躍する医師もいますが、深く理解せずに話しているケースがあることは理解しておくべきでしょう。

── ここまで業界全体のお話を伺ってきましたが、医師が経営参画する意味はどのようなところにあるとお考えですか。

石澤先生:
産業医として企業向けの健康増進活動をしていると、多くのヘルスケアスタートアップ企業から相談を受けることがあります。しかし全てではありませんが、見た目だけで中身の伴わない、エビデンスの乏しいサービスを売りにしている会社が少なからずあり、話を聞いてがっかりすることが珍しくありませんでした。

特に「医療監修」の依頼は要注意です。多くの場合、医療監修ではビジネスのパッケージが既に出来上がっていて、それに対して医学的コメントを求められます。ただ、もともとのパッケージ自体がエビデンスに基づいていないサービスであると、そもそも医学的に正しいかどうか明言することができません。それでも適当なコメントを入れる医療関係者が少なくないですが、本当に利用者にとって正しいことなのかと疑問を持ちます。

その中で私がリンケージに関わったのは、オンライン禁煙プログラムを日本ではじめて実用化し、かつ導入実績が最も多いと聞いて興味を持ったからです。禁煙外来は、禁煙成功率を大きく高めることを通じて、健康寿命を大きく伸ばすことが証明されています。一方で、対面診療を続けることにハードルを感じる人が少なくないため、オンラインを用いた禁煙外来を社会に広めることは医学的観点からも非常に有意義だと考えました。

また「医療監修」という形ではなく、私自身がリンケージの経営に参画し、サービスの開発段階から一緒に関わっていくことに意義を感じています。ヘルステック分野の新規事業を生み出す際に、医療の専門家の視点を加えることは、サービス内容の改善や品質の担保に必須の要素だと考えています。

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── 今後フェムテックで期待していることを教えてください。

石澤先生:
ヘルステックとしてはまだ新しい領域ですが、間違いなく社会に必要とされている分野ですで、今後の大きな成長を期待しています。産業医としても、テクノロジーや技術力が女性活躍推進を支える時代が来れば嬉しいです。

一方で、新しい取り組みがいろいろ出てくると、不適切なサービスの横行も懸念されます。たとえば近年の新型コロナウイルス感染流行でも、「空間除菌」「抗体検査」など感染予防のエビデンスに乏しいサービスが多数あり、消費者が戸惑ってしまう事態が続いています。専門家がしっかりと管理した、適切な医療サービスが多くの人たちに届くような社会を目指し、私自身も微力ながら頑張っていきたいです。

またフェムテックの分野でも、リンケージが掲げる「テクノロジーとつながりで健康意識の温度をあげる」ことが実現できたらと思います。

稲葉先生:
せっかくフェムテックが日本で注目されるようになってきたので、これを契機に女性が自分の体や健康のことを今まで以上に考えられるようになると嬉しいです。それすなわち産婦人科への受診のハードルを下げて、医療が必要な人がちゃんと医療にアクセス出来るようになることにつながるのではないかと期待します。

同時に、テクノロジーを活用したよいサービスや商品が、さらなる女性活躍の後押しとなるよう活用されていくことを願います。その中で、本当に人々にとって役に立つものが残っていくよう、専門家としてフェムテック市場を注視していけたらと考えています。

リンケージが提供する「フェムクル」は必ず寄与すると思うので、ぜひ広く活用されていってほしいなと思います。

プロフィール

リンケージCMO 石澤哲郎先生
東京大学医学部卒業。東京大学心療内科医局長などを経て、2014年から産業医事務所セントラルメディカルサポート代表、東京大学心療内科非常勤講師。2019年に健保向け完全オンライン禁煙プログラムの専門医療機関ワーカーズクリニック銀座を併設。
総合内科専門医、心療内科専門医、日本医師会認定産業医、禁煙指導医、医学博士、法務博士(司法試験合格)。
稲葉可奈子先生
産婦人科専門医・医学博士
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト代表 /コロワくんサポーターズ/予防医療普及協会顧問
京都大学医学部卒業、東京大学大学院で博士号取得、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母。 子宮頸がんの予防や性教育など、正しい知識の効果的な発信を模索中。

「フェムクル」とは

月経や更年期など、女性特有の健康課題を解決し、女性はもちろん、男性も含め誰もが働きやすい環境を。実態把握からはじめ、「きづき」「まなび」そして「つなぐ」好循環へ、あなたの企業と、社会を導きます。
URL:https://linkage-inc.co.jp/femcle/

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